あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
02さみしいから


ランチを終え、会社に戻ると、中田綾音が婚約破棄されたという噂が瞬く間に広まっていた。

女子社員は目敏い。

朝、私の薬指に何も嵌っていないのを誰かしらが確認し、昼休みのネタにされていたようだった。

そのせいか、そこらから私への視線がヒシヒシと感じる。
時々、馬鹿にするような忍び笑いもあった。

平凡な毎日にそんなパンチの効いた話は、刺激が大好きな女子社員の格好のネタとなる。

「人の不幸をネタにするなんて、最低」

憤慨したのは、私よりもみのりだ。

「大丈夫。ほっときゃ、そのうち静まるわ」

事実を話したのは、みのりだけ。
女子社員のネタはきっと、憶測ばかりが飛び交っているのだろう。

たとえそれが正しかろうと、間違っていようと関係ない。

ただ、憶測をするのが楽しいだけで、自分たちを満足させる答えを見つけられたらそれでオッケー。

ホントの事の顛末はどうでもいい。

そんな女子社員に、ホントはこんなことがあったのなんて、言おうものなら、きっと、陰で失笑される。

わかってるから、無視を決め込むのが一番だと腹をくくり、デスクについた。

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