おにいちゃんの友達
早くこのカフェから出てしまいたいのに、足が重くてゆっくりしか歩けない。

これって夢?

さりげなく、自分の太ももをつねってみた。

痛。

夢じゃない。夢であってほしいのに夢じゃない。

「ユイカじゃん。」

扉がようやく目の前にきた時、その声は背後から降ってきた。

マドカが先に振り向く。

「あ、マサキ先輩。お疲れさまです。」

マドカの声も慌てている。

きっとどうすればいいのかわかんなくなってるんだ。

ごめん、マドカにまで気遣わせて。

振り返らなきゃ・・・変だと思われる。

自分の動き、カフェ全体の空気がスローモーションになっているようだった。

「すみません、マサキ先輩。ちょっとユイカ気分が悪くなって。ちょっと先に外出てきます!ごゆっくり!」

マドカはそう言うと、私が振り返るより先にカフェの扉をバタンと勢いよく開けて、私を引っ張って飛びだした。

多分、マサキは呆気にとられた顔をしているんだろう。

後ろで「お、おう。気をつけてな。」と少し戸惑ったマサキの声が聞こえた。

カフェの扉が静かに閉まる音がした。

「ユイカ、大丈夫だよ。もう大丈夫。」

マドカは私の肩を抱いてさすってくれた。

人の手って、こんなにも温かかったっけ。

こんなにもやわらかくて優しかったっけ。

その途端、涙がぶわっと目からあふれ出した。

そのまましゃがみ込む。

全身の力が抜けていくようだった。

マドカは何度も「大丈夫だよ。」っていいながら、私が落ち着くまで背中をさすってくれていた。
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