熱恋~やさしい海は熱砂の彼方~
…ってか、あたしの感動は今、全然別のところにあった。うっかり聞き逃しそうになっていたけど、はじめて彼があたしのことを「お前」ではなく「安座間」とちゃんと名前で呼んでくれたからだ。

「テレビで今日のサイン会のこと知って、あーいうのって、どんな人が書いてるんだろ、って好奇心で来たんだけどさ」

比嘉くんも『プリンセスのディナー』見てたんだ♪

「魚住ととって、いつも海を舞台にした小説を書いてるから、小さい子が魚のことを“おとと”って言うところから取って、ハンドルネームにしてんだろ? でもソレ以外は全てのプロフィールがナゾだらけ」

“ナゾ”といえば、あたし的には今日の彼のほうがずっとナゾだった。

いつもクールで無口でぶっきらぼうな彼が、今日はまるで別人のようにスゴク気さくな感じがする。

ナゾだ。大いにナゾだ。

ねぇ、なんでっ? なんでなの~っ!?

「どんなヒトなのか期待してたんだけど、ぶっちゃけ、まぁ、アレだよな…、ごくごくフツーのオンナにしか見えない、って感じだよな……」

「………」

あたしは完全に自分の世界に入っていて、彼が話してるのなんて、全然耳に入っていなかった。


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