アイ・ミス・ユー
7 「大丈夫」のチカラ


「ケッコンするんだってよ、小野寺さん」


それを聞いたのは、秋の始まりの頃だった。


いつものように休憩室でお弁当をつついていたら、思い出したように樹理が話し出してきたのだ。
その内容はなかなかのものだった。


「え?結婚?健也が?誰と?」

「開発部の小西さんと」

「…………わ、わぉ〜。社内恋愛かぁ」


『別に俺はお前じゃなくてもめぼしい女は他にもいるし』と別れ際に言い捨ててきたのは、どうやら本当のことだったらしい。
所属する部が違うとここまで噂が来ないものなんだ。


ひたすらビックリしている私を、樹理は呆れ顔で眺めながらため息をつく。


「しっかしさぁ。信じられないよね。結子と別れて1年経ったか経たないかじゃん。それでもう違う女と結婚って……。もしかしたら同時進行で浮気されてたのかもよ?」

「まぁ、そうだとしても別れた後だから文句も言えないしね。結婚はおめでたいことだし、お相手の小西さんにも悪いから祝福しなくちゃ」


もう健也とのことは吹っ切れているし、笑って「おめでとう」というのはしっかり言える。


いや、吹っ切れているというか、それよりずっと前から健也への愛情は本物だったかも怪しい。
嫌なところばかり目に付いてしまって、好きな気持ちが薄れていたのは確かなのだから。


きっとそれを悟って、彼も社内で会うと私には冷たいのだ。

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