アイ・ミス・ユー


理由は自分でもなんとなく分かっていた。


金子基之を恋愛対象から外したくて、なるべく早く違う人を探して好きになりたくて、金子が気になっている自分から目を背けたくて「婚活」などと口にしてしまったのだ。


元彼の健也が結婚するから、というわけではない。


「えっ、綾川さん婚活パーティー行くんですか!?」


私たちの会話が聞こえたらしく、コンビニの袋を下げた今野くんがわざとらしく耳をそばだてる振りをしながらこちらへ近づいてきた。


「ヘタレの今野は入ってこないで」

「そ、そんなぁ。山崎さん酷いっす」


ピシャリとシャットアウトする樹理にすがるような今野くんの姿は、まるで召使いみたいで面白い。


フフフと小さく笑っていたら、今野くんの後ろからひょっこりと金子が顔を出した。


「誰が婚活するって?」

「あっ、主任!聞いてくださいよ〜」


いいところへ来たとばかりに今野くんが金子の腕を掴み、私の顔をガン見してきた。


「綾川さん、婚活パーティー行くらしいですよ!そんな結婚に焦る歳でもないっていうのに!」

「えっ、綾川さんが?」

「今野くん、余計な個人情報漏らさないでくれない?」


ややキツめに今野くんを睨み、目を丸くしている金子とはなるべく目を合わせないようにつとめた。


「ほら、男どもは散れ散れっ」


しっしっ、と樹理が彼らを追い払い、いなくなったところでようやくまた静かなお昼休みが戻ってきた。


「で、結子。婚活は本気なのかな?」


ニッコリとした表情で彼女に尋ねられてあとに引けなくなり、ついつい勢いでうなずいてしまった。


「当たり前でしょ。婚活パーティーでも街コンでも合コンでも紹介でも、なんでも来いよ」

「ほぉ。言ったな?」

「言ったわよ」


言い切ったものの、樹理の含み笑いに嫌な予感がした。










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