アイ・ミス・ユー


待てよ、私には切り札があるじゃない。
とっておきの切り札が!


「田上さんを最後まで育ててからじゃないと納得が出来ません!彼女はあのままではいつまで経っても成長しません!」


ドヤッと言い切ってからこっそり勝ち誇る。
翡翠ちゃんが半人前なので、まだまだしっかり教えてやってくれと言ったのは紛れもなく部長なのだ。


しかし、部長はあっさりとそれをぶった切った。


「ん、田上さんはね、今野くんにお願いしようかと思ってるんだよね」

「こっ、今野くんに!?」


今年で4年目の今野くんは、私が初めて教育係をした男の子だ。
私を慕っているらしく、けっこう頻繁に飲みに誘ってくれたりするのだけれど……。
まさか彼が新しく教育係に任命されるとは!


「聞いたら金子くんと綾川さん、同期らしいじゃない。2人で二人三脚で販促部盛り立ててよ」


にっこりと押しの強い笑顔で酒田部長にそう言われ、私は答えに詰まる。


これは誰かの策略か!?
ただえさえ気まずい金子と二人三脚って冗談にも程がある!


だけど、いつまでも黙ってるわけにもいかないわけで……。


痛いほどの部長の視線を感じて、私は観念して誰にも分からないくらい小さいため息を漏らした。
そして、「分かりました」とつぶやく。


「私なんかで主任をサポートできるか分かりませんが……出来る限り頑張ります」

「お〜、ありがとう!よろしく頼むよ。2人とも、頑張ってね!」


すっかり他人事の酒田部長は、私と金子の肩をポンポン叩くと面談室からさっさと出ていってしまった。

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