アイ・ミス・ユー


彼の本性を私は知っている。


職場ではいつだって自信満々で仕事をこなし、どんな場面でもビシッと決めているイケメンだけど、本当の姿はそうじゃない。


イヤミやクレームをつけてきた客様の愚痴や、上司への不平不満は当たり前。しまいには入りたてのバイトの子まで不満の対象になっていたりして。


もちろんそれだけにとどまるわけもなく、会社全体のシステムに納得が行かないだの、どこそこの部門の誰それの態度がいけ好かないだの、みみっちいことをネチネチと口にするのだ。


それでも同調してあげることでストレス発散になるならと、私は我慢して彼の話に相槌をうっていた。
こんな風に愚痴って情けない姿を見せることが出来るのは、きっと恋人である私にだけなんだろうと思っていたからだ。


弱味を見せてくれることで、勝手にそれが愛情だと思い込んでいたのかもしれない。


今思い返せば「我慢して」彼の話を聞いている時点で、私と彼との間に見えない壁があったようにも思える。


初めて健也に会ったのは、就職して1年目の時だった。


6歳年上ってだけでもオトナに見えるのに、それに加えて目を惹く容姿と行動力。
札幌中央区本店に配属された新入社員は私や樹理を含めて何人かいたけれど、健也が私の教育係になったのがキッカケで、出会って3ヶ月ほどで付き合うようになった。


それから約4年付き合って、去年の夏に別れたのだけれど……。




最初の頃は仕事が出来てプライベートではとても甘くて優しい言葉をかけてくれる彼に夢中だった。
職場では人の目を盗んでキスをしてくれたり、手をつないだりしたりした。
もちろん家なんかでは、「好きだよ」とか「愛してる」とか愛を囁いてくれた。


嬉しかったのは、最初だけ。
少しずつ、それに相反するように彼の気持ちの重さが辛くなってきてしまったのだ。


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