アイ・ミス・ユー


もうっ、今野拓!
あのおちゃらけた性格なんとかならないのかしら。


1人でプリプリしていたら、不意に金子が尋ねてきた。


「君と小野寺さんのことって、けっこう有名な話なんだね。サックリ聞くけど、振られたの?」

「本当にサックリ聞くんですね」

「話したくないなら、別に」

「いえ、隠してるわけではないので」


そう、私と元彼の小野寺健也は、社内でもほぼ公認のカップルみたいなものだった。
健也のオープンな性分も手伝って、わりと周知の仲だったように思う。


「振られたのは事実です。私のせいだから、仕方ないことなんです。……社内恋愛って、付き合ってる時はいいんですけど別れたあとがつらいですね。社内の人たちに筒抜けになっちゃうから」


言葉を選んで話しながら、なるべく寂しく聞こえないように配慮したつもりだった。
可哀想な女、って思われるのが嫌だったのかもしれない。
それに、別れた原因が私にあるということは間違いない話だし。


金子はしばらく私を見ていたけれど、「そっか」とつぶやいた。


「じゃあ、もう社内恋愛はしないの?」


え、なにその質問。
僅かに動揺したのを悟られまいと、冷静な口調で答える。


「そうですね、恋人は社外が一番です」

「だけど、もしも社内の人を好きになったら?」

「………………ならないように、してますので」


私が答えたことに関して、金子はそれ以上掘り下げてくることは無かった。
否定するでも肯定するでもなく、微笑むだけ。
その反応に、きっと深い意味は無い。





私と金子は少し距離を置いて、会社へ出社した。









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