偽りの姫は安らかな眠りを所望する
「バリー。今日の夕食にお出しする鴨が届いたのだけれど――。あら、こちらは?」

のんびりとした口調とは裏腹に、その手に握られているのは絞められた鴨の足だ。

「今日からこちらでお世話になります、ティアです。よろしくお願いします」
「ああ、あなたが噂の香薬師さんね。女中のコニーよ。こちらこそよろしく」

「噂の」というところが少々気になったが、彼女の口調と瞳に悪意は感じられない。
むしろ皆、ティアの髪と目の色を見ても眉をひそめない辺りは、ヘルゼント邸と同じく心の大らかな人が揃っているようで安心した。

「他には外に二人いるのだけれど、いまはまだ仕事中でしょうから。またあらためて、夜にでも」
「あと二人って。えっ、それだけですか?」

ティアは紹介された人たちを指折り数えてみる。六人、自分を入れても七人だ。
そんな少人数で、この館中の仕事を賄っているというのだろうか。

「最初に言ったでしょう? ここの仕事は、自分の専門を越えてやってもらわなくてはいけないって」
「そのかわり、フィリス様のご恩情で、待遇は普通のお屋敷よりずっといいのよ。ご飯も美味しいし、ね?」

コニーが突き出しただらんとぶら下がる鴨を受け取ったデラが、「そうよ」と厚みのある胸を叩いて請け負った。

忙しい彼らに、無駄話をしている時間はそれほどない。カーラとティアは早足で館を回る。

貴族の屋敷など、多少の違いはあれど造りは似たり寄ったりだ。
無我夢中で働いているうちに、なんとかなるだろう。

ティアは、自分で自分を鼓舞することにしたのだった。
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