偽りの姫は安らかな眠りを所望する
* 偽りの姫は永久に眠る
* * *

ちらりちらりと白い雪が舞い始め、真新しい墓標の上にも落ちていく。

「こちらでも降り始めたか」

ミスル湖畔の小高い丘に立つラルドは、鬱陶しそうに灰色の空を見上げた。ここより更に北の王都では、すでに冠雪を記録している。この辺りにも間もなく、雪と氷に覆われる本格的な冬がやってくるだろう。

「積もる前に建てられてよかったですね」

セオドールがふたつ並ぶ墓石のそれぞれに、蕾が開いたばかりの薔薇を供える。彼が温室で育てているものがつけた花だ。
墓の周りの薔薇たちはほとんどの葉を落とし、今は次に来る春に備えて暫しの休みに入ってた。

「それにしても、彼はなぜ入水を選んだのでしょう。無難に病死とかではいけなかったのですか」

冷たい風に細波を立てる湖面を眼下に見下ろし、セオドールは首を傾げた。

「遺体が見つからない口実になるからじゃないかな? まあ、最大の理由は、僕に対する腹いせのような気がしないでもないけれど。ご丁寧に愛の籠もった遺書まで遺してくれたりして。これじゃあ僕は、今後妻を娶っても浮気のひとつもできないよ」

半分は冗談、半分は本気なのか。ラルドは恨めしげにフィリスの名が刻まれた墓標を睨みつける。

「王都で僕は、美しい最愛の婚約者に先立たれた悲劇の男だ。それらしく振る舞うのに一苦労さ」

「それはそれは。なんというか、その……大変そうですね」

セオドールは、甥のしでかしたことを完全に他人事といった様子で同情するふりをする。

この数ヶ月間の慌ただしさを思い返し、ラルドは心の底から嘆息した。

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