どこまでも、堕ちていく。

少し眠たそうに目を擦りながらソファに腰掛ける道弘。
いつものようにきっちりとスーツを着こなし髪型も決まっている。

「パパ、何とか言って。雅紀が幼稚園行きたくないって…」
「あっ!」
「え?」
「もうこんな時間だ。行ってくる」

道弘はそう言ってソファから立ち上がり、慌しい様子で玄関へと走って行ってしまった。

「ちょっとパパ!雅紀がぐずって…」
「悪い、今日朝イチで会議なんだよ。雅紀のことは全て彩に任せるから」

道弘のその言葉にガンと頭を殴られたような感覚に陥った。
彼にとっては何気ない一言。
きっと心から私を信用してくれているのだろう。
だけど無性に腹が立って何とも言えない孤独な気持ちになるー。

「行ってらっしゃい」


…まるでいつも1人で戦ってるみたいだ。


有名大学を出てすぐに立ち上げたIT企業が大当たり。
絵に描いたようなITバブルの波に乗った道弘と結婚したのは今から5年前。
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