イジワル御曹司と花嫁契約
公園にはコスモスが咲いていて、吹き通る風は涼しさを感じさせる。


落ち葉が地面を覆い、金木犀の甘く芳しい香りが秋の訪れを教えてくれている。


 母の退院日もまもなくという頃、終わりは突然やってきた。


春が来て、夏が来て、秋が来て、そして冬が来る。始まりがあれば、終わりがある。


それは当然のことで、あらがいようのない、分かりきったことだった。


 母の見舞いも終わり、病院を出てタクシーを拾おうとしていた時、目の前に一台の黒塗りのリムジンが停まった。


最初は、彰貴が乗っているのかと思った。


でも、運転手が八重木さんではなく知らない人だったので、何かおかしいなと感じた。


急に嫌な予感がしてきて、それは見事に当たった。


 ゆっくりと後部座席の窓ガラスが降りていく。


黒髪に少し白髪の入った頭、額に深く皺の入った眼光鋭い瞳。


鼻筋が弓なりに曲がり先端のとがった鷲鼻に、薄い唇。


それらがゆっくりと見えてきて、窓ガラスが全て下がると、威圧感のある五十代か六十代くらいの男性が車の中にいた。
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