壊れるほど抱きしめて




私達はアパートを出て、最寄り駅まで一緒に歩く。


かおりさんの両親の家に着くと彼は驚くよね?
だけど乗り越える為には行くしかないし、かおりさんが彼に宛てた手紙をちゃんと読んでほしい。


きっと彼の苦しみが無くなる筈だから。


電車に乗り、一度乗り継ぎをして電車を降りて彼を見ると、少し驚いていたように見えた。


そんな彼に構わず私は『行こう』と言って歩きだした。


駅から歩いてかおりさんの両親の家までは十分くらいだ。


私は彼の手を取り、着いて逃げないようにしっかりと手を繋いで歩き出した。


そしてかおりさんの両親の家の前で私が立ち止まると、彼は驚きを隠せないような表情をしている。


「着いたよ……」


「どうして……何であんたは」


坂木くんは困惑していたが、私はインターフォンを押す。


「はい」


「望月です」


「今開けるわね」  


かおりさんの母親がそう言って玄関の扉を開けた。


「こんにちは」


「いらっしゃい望月さん。……聖也くんも久しぶりね、さぁ入って」


「坂木くん、行こ」


私がそう言って坂木くんの手を引っ張るが、坂木くんは動こうとしない。


そんな彼を見つめやさしく私は微笑むと言った。


「大丈夫だから……今日ここに坂木くんを連れて来てくれと言ったのは、かおりさんのお父さんなんだよ?」


「え……?」


「だから行こ?」


そう言ってどうにか坂木くんを玄関まで連れて行き、中へと上がった。


坂木くんをリビングのソファーに座らせて、私はかおりさんの母親の所に行った。


「あの、私は帰ります。彼をよろしくお願いします」


「望月さん?」


私は頭を下げてリビングを出る前に坂木くんの方を見た。


彼の表情は固く、まだ困惑しているようで私が帰るのも気づいていない。


『大丈夫だから、頑張って……』


そう心の中で言って、私はかおりさんの両親の家を後にした。


私はまた駅に向かって歩き出す。


坂木くんも学生の頃はよくこの道を通ったのかな?


また学生の頃みたいに彼が笑顔になれたらいいな。




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