恋は人を変えるという(短編集)




 少し時は過ぎて、初秋。

 空港まで中谷さんを見送りに行った、その夜。彼女がバッグの中から透明のケースを取り出し、テーブルの上に置いた。

 それは、中谷さんに贈るため、ここ数ヶ月彼女たちが作っていた自主制作のミニアルバムだった。

「約束だったので、どうぞ」

 照れくさそうな顔で、彼女が言った。

 お礼を言って改めてケースに目を落とす。ジャケットは、窓辺に花とてるてる坊主、その向こうに虹がかかっているという手描きの絵だった。
 ケースを開けてみると、ちゃんと歌詞カードまで入っている。CDをパソコンに入れ再生しつつ歌詞カードを開くと、曲名のすぐ下に「作詞・崎田邑子」の文字。思わずにやけてしまうと、それに気付いた彼女がぺしんと俺の腕をたたいた。

 パソコンから流れてくるのは、疾走感のある明るい曲。次は穏やかな曲、旅立ちの曲、穏やかな曲。そして最後に、一曲目とは違う明るい曲。音楽のことは詳しくないけれど、この全てを彼女たちが作ったのだと思うと、やたらと感動してしまった。
 彼女が書いた詞は、どれもこれも綺麗で優しい。彼女らしい詞だと思った。

 曲を聴きながら、彼女が「このアルバムは八枚しか作らなかったんです」と説明してくれた。
 中谷さんと吉野くんと彼女は勿論、バンドメンバーのふたり、コーラスで参加した矢田さんという子、それから吉野くんの彼女と俺の分。

 身内の贔屓目かもしれないが、この世に八枚しかないというのが勿体ないくらい、良いミニアルバムだった。


「また集まって作ればいいのに」

 言うと彼女は首を横に振り「大変だったのでもういいです」と。初めての作詞は想像以上に大変だったらしい。


「でも、久しぶりに昔話をするのもいいかもしれないですね」

「高校時代の話? それは聞きたいなあ」

「じゃあ今度、手芸部に入った頃の話をしますね。卒業アルバムでも見ながら。アルバム笑えますよ。わたしたち三人がぬいぐるみ持ってて」


 彼女のことを知っていく度、嬉しくなって頬が緩む。

 やっぱり今日も、俺は彼女のことばかり。







(了)
< 51 / 51 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:34

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

すきとおるし
真崎優/著

総文字数/17,307

恋愛(純愛)21ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
わたしの時間は二年前から止まったまま。わたしの身体は二十七歳になったというのに、心は二十五歳のあの日のままだ。 実感のない、感情のない死が、これほどまでに大きいものだとは。 死というものが、これほどまでに透き通ったものだとは……。
立ち止まって、振り向いて
真崎優/著

総文字数/10,423

恋愛(ラブコメ)9ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
悲しいくらいにわたしを異性として意識していないあの人は、わたしが今夜先輩の部屋にお邪魔したと言ったら、どういう反応をするだろうか。 先輩の部屋を訪ねた理由を「立ち止まって振り向きたかったからだ」と話したら、どう返すだろうか。 きっと大笑いは見られない。 恐らくいつも通りニュートラルな様子のまま「おまえはいつも変なことをするし、変なことを言うね」と、呆れた様子で言うだろう。
叶わぬ恋ほど忘れ難い
真崎優/著

総文字数/44,288

恋愛(純愛)47ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
※更新中※ この恋は、わたしが初めて経験する本気の恋だ、と。すでに気付いていた。一生で一度、あるかどうかの、本気の恋だ。 でもこの恋心は、決して知られてはいけない。成就もしない。それもすでに気付いている。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop