うっかり姫の恋 〜部屋の鍵、返してくださいっ!〜
「それにしても、許しがたい」
「えっ?」

 了弥は片目を瞑って瑞季を睨む。

「なんで、俺じゃないと思った。
 他の男とする当てでもあったのか?」

「あ、あるわけないじゃん。
 だって、了弥が私のことを好きだとか思わなかったし」

「なんで?」

 なんでってなんだ?

 とてもそのような態度には見えなかったからですよ。

 しかし、怒っているということは、自分では態度に出していたつもりなのだろうかな。

 わかりにくい人だ、と思う。

「鍵、返そうか?」

 そう了弥が訊いてくる。

 誰だかわかんないけど、鍵、返してくださいっ、とずっと思っていた。

 だけど――。

「……返さなくていい」

 赤くなって瑞季は言った。

 ちょっと笑って、了弥がもう一度口づけてくる。

 重いな、と思う。

 了弥の体重、重すぎる……。

 だけど、きっと、これも彼の言う幸せの重みだ。

 なんで、あの夜の相手を了弥だと思わなかったのか、ちょっとわかる気がする、と今、思った。
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