うっかり姫の恋 〜部屋の鍵、返してくださいっ!〜
「あ、じゃあね」
と特に否定もせず、瑞季はエレベーターに乗ろうとする了弥を追いかけていった。

 途中でカシャンッとキーケースを落としていた。

「待って。
 ごめんなさい」
とそのキーケースを手にエレベーターに乗り込むと、ボタンを押して待ってくれていた了弥が言う。

「もう落とすなよ、鍵」

「大丈夫大丈夫」
と笑ったが、お前の大丈夫ほど、不安なものはない、という顔をする。

 新しく新調したキーケースだ。

 了弥とお揃いで、お互いの家の鍵が入っている。

 だが、了弥は、
「でもこれ、もういらないよな」
と瑞季の家の鍵を引っ張り、言う。

「え?」

「もう返せよ、それ」

 そろそろいらないだろ、とあまりこちらを見ずに言う。

 その横顔を見ながら、笑ってしまった。

 本当に口に出すのが苦手な人だな、と。

 でも、私も同じだ。

 自分の想いを口に出すのも、勇気を出して、なにかを確かめるのも苦手だ。

 でも、もう絶対、間違わないから。
< 327 / 328 >

この作品をシェア

pagetop