確かに君は此処に居た
2.人々は互いに噂を囁いた
学校の正門へと続く並木道は些か急だ。
ならば、正門ではなく裏門から行けばいいと思うかもしれないが、
生憎この高校には正門のみしかない。
だから生徒は嫌でもこの坂を昇らなければならない。

「伽夜!おはよう」

ちりりんとベルと共に聞こえた声に振り替えれば見知った顔があった。

「なんだ、由宇か…おはよ」

吉原由宇とは中等部からの付き合いだ。
伽夜たちが通う高校は私立で、中等部から大学までエスカレーター式である。

「なんだとは何よ?一体、誰を期待したわけ」
「別に誰も期待してないよ。ただ朝から元気だなと」

伽夜は朝に弱い。それも低血圧のためだ。体がだるくてしょうがない。

「何言っての!私たち、まだ麗しの18歳の女子高生よ。若い②」
「でももうすぐ、20歳じゃない。肌のはり、なんてそこから急降下するんだよ」
「はああ、伽夜ってたまにおばさんっぽいよね」

諦めと呆れが交じった眼差しを向けられるが、無視だ。それが一番いい。

「だから、恋なんていう艶めいた事と無関係なのよ。私たちは今が盛りの少女なのに。好きな人もいないなんて」
「無関係?だあれがそんなことを言ったの?」

足を止めて振り返ると、きょとんとした由宇が同じように自転車を止めていた。

「え?関係あるの!?初耳!ねえ、何?」

興奮した高めの声が耳に突き刺さるように聞こえる。


「告白くらいされたことくらいあるもの」
「こ、告白?伽夜に?」
「そう、愛の告白。でもね、逃げちゃった」

昨日、伽夜は全速力で少年から逃げてしまったのだ。恥ずかしさの一心で走ったお陰で、学校から家までの時間10分を7分、今までの3分短く出来た。

「うわーその男の子、可哀想!ね、どんな子だった?」
「んー女の子みたいな可愛い子だったよ」
「美少年!?」

突然、声を上げた由宇は立ち止まり伽夜の顔を器用に覗き込む。

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