確かに君は此処に居た
3.さあ、物語の前兆は幕を開けた
学校から徒歩15分の住宅街にある11階建てマンション。
3年前に建てられたばかりのそこの8階一番端が伽夜の家だ。鍵を開け、中に入る。真っ暗だ。慣れた手付きで壁に手を滑らせ、明かりをつける。

「よっと」

上から鍵を閉め、靴を脱ぎリビングへと向かう。
リビングの明かりを付け中に入ると、テーブルの上には料理が並べてあった。それらに寄り添うように一枚の白い紙がある。

『温めて食べて下さい。御父様から電話がありました。いつものように口座に振り込んだということです』

見慣れた家政婦の字だった。
いつも料理の横に手紙を残して行く。それが義務なのか、好意的なのかは分からない。家政婦は四十くらいの女性で充という家庭的な人だ。

「…冷たい」

ラップがかけてあったのを外して、肉じゃがを摘まんでみた。それをレンジに入れ、時間表示のダイヤルを合わせると、独特の音を発し始めた。着替えるために廊下に出た瞬間だった。

がたっ


突然の音に身体はすくんだ。

「…?」

がたがたっ

その音は鳴り続ける。伽夜は音が鳴っているじっとドア前まで歩いて見つめた。

「…泥棒…?」

その部屋は伽夜の父親の部屋である。父親は此処には帰っていない。今、家にいるのは伽夜だけだ。向こう側にはひょっとしたら泥棒がいるのかもしれない。

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