あなたを守りたい
 藤井さんと一緒のバスで帰るのは久しぶりだった。
 バスに乗り込むと、一番後ろの席が空いていたので並んで座る。

「1人で回り出した感じはどう? うるさい金子くんがいないから楽でしょ?」
「そんな事ないですよ。やっぱり1人は大変です」
「でも、よく頑張ってるじゃない。経理と総務の女の子達の間でうわさになってるのよ」
「うわさって、何の?」
「黒沢くんイケメンだし、仕事も出来るし、彼女いるのかな~って」
「ええっ?」

 そんなうわさが立っていたとは。

「で、どうなの?」
「彼女ですか?」
「うん」
「いませんよ。好きな人はいますけど」
「えっ? それって片思いって事?」
「はい」
「えー、どんな人?」
「興味あるんですか?」
「えっ? そりゃーまあ、黒沢くん優しいし、女子の代表として知りたいかなって」
「最高に素敵な人です」
「へぇ~。その人と上手くいくといいね」
「はい」

 出来る事ならあなたと付き合いたいです。
 そして、あなたを守りたいです。
 彼女は、それ以上の事は聞かずに、窓の外に目をやった。

「あの」
「うん?」
「明日、ジムに行かれる日ですよね?」
「うん、そのつもりだったんだけど、ちょっと用事が出来ちゃって、明日は行かない事にした」
「そうですか」
「のびのびになっちゃうけど、来週の土曜日にするわ。そうだ。土曜日なら仕事も休みだし、どう? 黒沢くんもジムに通わない?」
「この前、金子さんが行こうとしたら拒否されてたじゃないですか」
「あれは、金子くんがいやらしい目で見て来そうだったからよ。黒沢くんだったら大丈夫かなって」
「ありがとうございます。考えておきます」

 ジムか。
 そういえばここんとこまったく運動してなかったな。
 だけど、僕って千春さんにとってどれだけ安心な人に映っているんだろう。
 以前泊まらせてもらった時もそうだった。
 これって、いい方に考えても大丈夫なんだろうか。
 

 土曜日の朝が来た。
 夕べ、お客さんの所から戻ったのは、11時頃だった。
 それから風呂に入って、読書をしていたら1時を回ってしまった。
 今朝は、目覚ましを掛けてなかったので、自然に目が覚めたのは8時半。
 ベッドから身を起こし、カーテンを開ける。
 いつもより高い位置にある太陽の光が、目の奥に刺激を与えてくる。
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