あなたを守りたい
「わかりやすい奴だなー。よし、俺に任せとけ」
「任せとけって、どうするつもりですか?」
「俺がお前らをくっつけてやるよ」
「やめて下さい」
「どうして? 千春ちゃんの事、好きなんだろ? だったら付き合っちゃえよ」
「僕なんか、好きになってもらえませんよ。振られたらここに居づらくなっちゃうじゃないですか」
「わかんねーだろ。案外あいつもお前の事好きかもよ?」
「もうしばらく、このままで居させて下さい」
「そうか? わかった。それじゃ情報収集と参りましょうか」
「何ですか、それ」
「例えば、千春ちゃんに彼氏がいるのかどうか」
「あ、それ知りたい。もしいたら、告白する前に撃沈だけど」
「よし、明日聞こう」
「だけど、僕の事は内密に」
「オッケー。それじゃ、お前もちゃっちゃと日報書いてしまえ」
「はい」

 明日の楽しみが出来た。
 その一方、不安もある。
 もしも彼氏がいたら・・・。
 

 20時に会社を出て、アパートに帰り着いたのは1時間後だった。
 普段なら40分ほどで着くのだが、途中スーパーに寄ったので遅くなった。
 3割引になっていた惣菜を袋から取り出してテーブルに乗せる。
 ご飯は、今朝炊いて冷蔵庫に入れていたものをレンジで温めた。
 その間にガスでお湯を沸かし、インスタントの味噌汁を作る。
 一人暮らしだと、出汁をとって味噌汁を作るのは面倒だった。
 
「いただきます」

 自分の声を部屋が吸収していく。
 もちろん答えてくれる人は誰もいない。
 そう言えば、彼女いない暦もう3年か。
 高校、大学と何人かの女の子と付き合った。
 大学3年の時に出来た彼女とは、就職してからもしばらく続いたが、忙しくてなかなか会えない僕に嫌気がさしたのか、別の男と浮気をして授かり婚で嫁に行った。
 あの別れ、今でもちょっと引き摺ってる。
 彼女とは、そのうち結婚するんだろうなと思っていたから。
 あれ以来、女性との出会いはあっても消極的になってしまった。
 まあ、僕が悪かったんだけど。
 
 食事を済ませ、風呂に入ってベッドに横たわったのは、0時を回った頃だった。
 目を閉じても頭に浮かぶのは千春さんの笑顔。
 彼女と付き合えたらどんなに幸せだろう。
 もしそうなったら、前の失敗を教訓に、彼女との時間を大切にする。
 仕事も大事だけど、それで寂しい思いをさせるわけにはいかない。
 一緒に食事をし、一緒に出掛け、一緒の時を過ごす。
 そんな生活が出来たら最高だろうな。


 
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