婚約者はホスト!?⑤~愛しい君へ~

「勇斗、よく寝てんな… ぐっすりだな」

シングルベッドで気持ち良さそうに眠る勇斗を見て、圭司がクスリと笑った。

「うん 今日はおじ様にたくさん遊んで貰ったからね まあ、おじ様の方も今日は相当飲んでたから、今ごろはぐっすりなんだろうけど…」

ベッドの中で私がフフっと笑うと、圭司は苦笑いを浮かべた。

「ったく、あのクソ親父… 相変わらず、酒癖悪くて参るよな」

なんて、ブツブツ文句を言いながら、圭司は夫婦のベッドへと入ってきた。

あの後、おじ様は、夜ご飯を食べていけと私達にお寿司を取ってくれて、上機嫌でビールを飲み始めたのだけど…

久しぶりのお酒だったらしく、おじ様はすぐに酔っぱらってしまって… 勇斗がスヤスヤ眠る中、泣いたり、笑ったりと、とにかく大騒ぎだった。

時々、『孫の顔を見せてくれてありがとう』と言いながら、私に何度も握手を求めてきたりもして…

その度に圭司は『触んなよ このエロオヤジ! 親子の縁切るぞ!』と本気で怒っていた。

それでも、今日はおじ様も圭司もとても嬉しそうな顔だった。

私も次に会う時は、「おじ様」ではなく「お父さん」と呼んでみようかな…なんて

私は密かに決意して、コロンと寝返りを打った。

ふと圭司を見れば、仰向けのまま携帯をピコピコといじっている。

「何やってるの?」

下から私が覗き込むと…

「着信拒否の解除だよ」と圭司は笑った。

「そっか おじ様の…」

私も知らなかったのだけど、圭司はおじ様からの電話を何年も着信拒否にしていたようで…
今回の件でおじ様は、圭司の勤務先の番号を104で調べてかけてきたのだそうた。

パソコンもなく、まだガラ携のままのおじ様だけど、やっぱり圭司のお父様だけあって、こういう時にすごく気転がきくんだなあと感じた。

因みに、以前、家にかかってきた非通知の電話も、詐欺グループに狙われたおじ様が、圭司の無事を確認する為にかけてきたものだったらしい。

そして、おじ様は、その電話で思いがけず孫の存在を知り…
ひと目だけでも孫の顔が見たいと、こっそり後をつけているうちに、勇斗が余りにも可愛くて、ついついたい焼きまで食べさせてしまったのだそうだ。

「そうだ 圭司 おじ様に勇斗の写メ送ってあげようよ きっと、おじ様、喜ぶよ」

ね?っと圭司の肩を揺さぶった。

「あー でも… 俺、親父のメアド知らないから…」

「えっ 何でアドレスの交換しなかったの?」

「電話だけで充分だし 親父とメールとか気持ち悪いだろ? 絵文字とか送られてきたら蕁麻疹出そうだし…」

圭司がウンザリした顔で言った。

「えー せっかく仲良くなったのに~ も~う しょうがないな~ じゃあ 分かったよ 私がおじ様の家に遊びに行った時、アドレス聞いて送っといてあげるね」

天の邪鬼の圭司に代わって、ここは私が一肌脱いであげよう
おじ様だって、勇斗の写真欲しい筈だしね
私はニッコリ笑って、圭司にそう答えたのだけど…

「まさか、なつ… 俺のいない時にまた親父のとこに行くつもり?」

なぜか、圭司に睨まれた。

「えっ ダメなの? 勇斗もすっかり懐いてるし…」

「ダメだよ 俺と今日した約束、もう忘れちゃった?」

「忘れてないけど… それおじ様に関係ないじゃない」

「あるよ ちゃんと思い出しながら言ってごらん? ほら」

「えっ あっ えっと『圭司の携帯番号は肩身放さずに持ち歩く』」

「うん あとは?」

「『何言われてもすぐ信じないで必ず圭司に相談する』」

「それから?」

「『知らない男には絶対ついて行かない 男とは二人きりにならない』」 

「ほら、それ 親父と二人きりになったらダメだろ?」

「いやいや それおかしいでしょ 勇斗もいるから二人きりでもないし、そもそもおじ様は男だけど、圭司のお父様なんだから」

「でも、ダメ… もう二度となつには触らせない なつに触っていいのは俺だけだろ?」

そう言って、圭司は私に深く口づけた。

いやいやいや…
『触らせない』とか大袈裟な感じで言ってるけど、おじ様がしてきたのはただの握手だし…

圭司がヤキモチ妬くような要素なんて、これっぽちもないんだけどな…って
今は何言っても無駄か…

キスからほろ苦いアルコールの味を感じながら、私は圭司の背中に両手を回した。









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