ねぇ、運命って信じる?
第2章 side恭護

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久しぶりの休日に1度は起きたものの…せっかくの休みなのだからもう一度惰眠をむさぼろうとしていた矢先、彼女は突然部屋に乗り込んできた。3歳上の姉の綾乃だ。綾乃は一見おっとりしていそうに見えるが勘が鋭く結構策士な面も持ち合わせており敵に回すと厄介な人物のひとりでもある。
姉の婚約者の竹田さんもきっと綾乃に騙されているに違いないとにらんでいる…そんな事は口が裂けても言えないが。
「和樹さんが急に長期出張になっちゃったんだって。だから代わりに式場巡りに付き合ってほしいの。もうネットで予約もしてあるの。嫌なんて言わないよね。恭護くん。」
語尾にハートマークがつきそうなくらい甘ったるい声でお願いする姉には自分が入院していた時にかなり世話になったので…嫌とは言えない…。
「あっ、車も出してね〜。」
端から見たら腕を組んでいるようにみえる強制連行スタイルで式場に向かった。誤解されて困る人もいないし、まぁいいか。半ば強引に連れて行かれたその式場には忘れたくても忘れられない人がいた……またしても自分の考えが甘かった。彼女はどう見ても誤解されて困る人なんじゃないのか?
一瞬彼女が目を見開き驚いたようにみえたが、何事もなかったかのように書類を差し出してきた。
俺が結婚するとしてもただのお客様ってことか?…なんだよ。少しくらい動揺したっていいだろ。
俺はとっさに姉の名を竹田綾乃と書いていた。
勤務先は悩んだが正直に書くことにした。
姉はどうして竹田と書いたのか不思議そうにしていたが…とりあえず空気を読んでくれたらしい。
書類を受け取った彼女の様子が少しおかしいような気がした。もしかして俺が御曹司だと気付いたのか?逃して惜しいことしたって悔しがっているのか?そこへ彼女の様子が気になったのか打ち合わせスペースにひとりの男が入ってきた。フォローに来たらしいその男に見覚えがあった。工藤です。と自己紹介した彼がその後ほとんど話を進めていき、それに姉が答える。俺と彼女はほとんど言葉を発さずに時間が過ぎていった。
…2人の手元へ目を向けると工藤さんと彼女のしている指輪が同じだった。…なんでだよ。やっぱりそいつは…あの時の男なのかよ……2人は…くそっ……
いつの間にか時間が過ぎていて気が付くと綾乃は
「今日は色々とありがとうございました。また来ますね!」
すでに帰り支度を始めているところだった。それにならい俺も綾乃の後をついていった…ただ彼女を一切見ることができなかったが…

「ねぇ、さっきなんで竹田綾乃って書いたの?
まぁ、もうすぐそうなるんだけど…」
「それは、自分でもよくわからない。とっさに そう書いてたんだ。もしかしたら、もう俺にも他に相手がいると思わせたかったのかも…」
式場帰りの車中で綾乃にぽつり、ぽつりと話しはじめた。
さっきの担当の彼女と大学時代に付き合っていたこと。プロポーズまで考えていたけれど、リハビリが終わり彼女に会いに行ったら式場でフォローに来た工藤さんと楽しそうに指輪を選んでいたことをすべてを話し、少し気が楽になった。
「そうだったんだ…あの頃そんなことがあったなんてまったく気付けなかった。でも、私が見るにまだ可能性あると思うけどな……そうだ!このまま私と恭護が結婚することにして式場に通ってみる?私ね…さっきの式場スゴく気に入ったし、和樹さんとの挙式の下見にもなって…一石二鳥じゃない⁉︎」
若干、綾乃に押し切られるような形でまた式場へ行くこととなった。…本当は少しだけ、彼女の事が気になったから…また、式場を訪ねたら彼女はどんな反応をするだろうか。
綾乃は婚約者の名字をそのまま名乗り俺たちはまた式場へ足を運んだ。

綾乃は”他の式場には和樹さんと行くから!でも、忙しい時はお願いするかも”と若干の暴君を発揮していたが、それも弟を気遣ってのことだと解釈して、少し…ほんの少しだけ感謝した。
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