樫の木の恋(上)
さん


大殿は上洛を目指していた。
上洛の名分は明智殿が持ってきたし、道も確保出来ていた。最後は足利義昭殿が入るための二条城を攻め落とすというところまで迫っていた。

しかし二条城はやはり守りが堅く、尚且つ三好家には勢いがあった。
なんと言っても松永久秀という男。なかなかに策略家らしく、悪行だろうがなんだろうがやるような男らしい。

「はぁ…二条城は大きいもんじゃのぉ。」

木下殿は十日程家を空け二条城の下調べに行っていた。
下っ端か忍びにでも調べさせればいいのだが、木下殿は間近で見なければ納得出来ないと言って行ってしまった。
本当はお供したかったのだが、他にたくさんの仕事があったために一緒にいけなかった。

城で会議に参加した後、城を二人で歩きながらため息をつく木下殿。

「秀吉。帰るのを待っておったぞ。」

突如不意に現れた明智殿に二人とも酷く驚く。木下殿はまたしても振り返りながら即座に刀の柄に手をかけようとする。やはり明智殿は背後を取るのが上手い。
そういえば会えない間は仕方がないと口付けはしばらくしていなかった。

「そこの部屋にでも入らんか。」

そう促されて木下殿は小さく頷きついていった。
その部屋に誰も入らないように部屋の前でただ外を見ながら待っていた。
いつになっても腸が煮えくり返りそうな程の怒りが込み上げてくるが、その都度木下殿は安心させる言葉をくれる。
一番嫌なのは木下殿だというのに、あの人はお優しい。


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