樫の木の恋(上)


「大殿の命令とはいえ、城下町を焼き払うのは気が引けるの……。」

今、柴田殿や丹羽殿などなどと共に小谷城の城下町を焼き払っていた。浅井家に肩入れしているとはいえ、やはり町を焼き払うのは抵抗がある。

その後一旦引いてから数日後、今度は小谷城よりも姉川を挟んだ南にある横山城を織田家で包囲していた。
しばらくすると徳川殿の隊と合流し、布陣を引いていた。

情報によると、朝倉・浅井連合軍は小谷城よりも東側の大依山に布陣しているという。
木下殿曰く、このあとは我慢比べとなるのだろう。
地の理がある朝倉・浅井連合軍は大依山に引き込みたいからか動かないのだろう。
しかし、それは織田家にとっては良くない。

だから向こうが痺れを切らすまで待ち、姉川にて討つというのが木下殿が大殿に進言した考えだった。

「朝倉・浅井連合軍が陣払いをし、野村、三田村に別れて進軍した模様!」

真夜中、大殿の元へと徳川殿、柴田殿や丹羽殿、木下殿が集まり議論していた。そんな中に届いた一報だった。
恐らく朝くらいに衝突することになるだろう。

「徳川殿が三田村に向かってくれる。夜が明け次第わしらは野村から参る。」

大殿のその号令を聞き、皆それぞれの隊へと戻っていった。今回は木下殿についてお守りする役目。

「半兵衛…わしは死なん。心配は無用じゃからな。」

静かにそう言う木下殿は少しだけ遠くに感じる。



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