樫の木の恋(上)
「わしは狡い。じゃから、わしと別れたら織田家にいられなくなるという秀吉の思い込みを利用している。じゃが実際別れたところで織田家には秀吉が必要な存在じゃ。追放するようなことなどするまい。」
大殿が少し憂いを込めて笑う。それが秀吉殿に向けられる切なさと、想いの深さを表す。それでしか秀吉殿を繋ぎ止められないとでもいわんばかりに。
それと同時に大殿に励まされたのだと思った。
「秀吉殿は大殿のことがお好きですよ……。」
「ふんっ。女の心はよう分からん。じゃが…」
「……?」
「じゃがな、半兵衛。秀吉の心はわしのところには無い。わしの所にあるのは忠義と恩義じゃ。しかし、半兵衛。お主に向けられた秀吉の好意はなんじゃ?思い返してみぃ。」
「……っ!」
自分に向けられたものは全て純粋な好意だった。忠義とか恩義とか、そういうものが無い。いつもただ秀吉殿は大殿に対する負い目があったから、ただ受け入れるだけだった。しかし好きでいてくれていたのではないか。
「たく…お前らは面倒じゃ。秀吉は半兵衛のためとか抜かすし…。何故、自分の女が他の男の幸せのために聞いてくれと言われにゃならんのじゃ。
ええのぉ!半兵衛!秀吉にそこまで言われて。」
大きなため息をつきながら、面倒そうに大殿は見つめる。
諦めの色を目に潜めながら愛おしそうに秀吉殿を想っている大殿は、男ながらに綺麗だと思った。