溺れる恋は藁をも掴む
 百合は試験に受かっても、店を辞めなかった。

 俺は無性に寂しくなる反面、何も言えなくなっていた。

 水商売をしている事と家族の話をしないという事を抜かせば、百合はごく普通の女にすぎなかったしね。

 派手じゃない生活。
どちらかといえば、倹約家で無駄なものは極力買わない主義。

 部屋も、生活していくのに最低限なものしか置いてない。

 宝石だとかブランドものに興味があるようにも見えなかった。

 唯一、仕事に着ていくスーツやワンピース、着物などがドレッサーの中に揃えてあるだけで、普段はジーンズ姿の百合。

 俺には言えない秘密もいつか話してくれるまで待つしかなかった。

 俺は百合との将来があるって、信じていたからこそ我慢出来たんだ。

 本当は、百合の事は全部知りたかったさ……

 でも、聞いちゃいけない空気を百合は作っていた。
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