彼女は世界滅亡を描く。
先生が言っているのは、「重要な紙」のことだ、とすぐにわかった。海に沈んでいく世界で、歴史も海に葬られていく。その理由の一つに、歴史を記した膨大な情報をもつ媒体の多くが未だに紙であることが挙げられる。画期的だと言われたネットバンク。いつしかすべての情報は大量の人がネットバンクにアクセスできるおかげで改竄だらけになり、結局人々は歴史や法律、大切な資料は紙媒体に残すことを選んだ。紙が永遠になくならないわけだ。そんな時代を教科書で学んだ私達は皮肉を込めてそれらを「重要な紙」という。
カミュニカの言っていた地球に関する資料がないのも、きっと海に沈んだためなのだろう。地球から火星と通信が出来るというならインターネットを使えばいいはずなのに、彼らはネットバンクのものが改竄だらけだと知っているのか、紙媒体を参考にしているような口ぶりだった。
私は昼間の出来事を思い出す。
まだたくさんの謎がある。
考えれば考えるほど、不思議な。
一つ目はカミュニカと名乗った男。男は灰がかった髪に深い青の瞳だった。少なくとも先祖が地球人であっても日系ではないはずだ。それとも火星人として進化したか…。
そして、火星移住計画と称し地球から逃げ出した官僚の話。その子供達や地球で陸地を失った人が、現在は火星で生活している。資源の足りない火星と、領地の少ない地球。一番てっとり早いのは地球の資源を火星へ持ち帰ること。つまり地球から火星へ物を輸送することだが、それをしないのはなぜか…。物を輸送できないか、地球の資源枯渇を恐れているか、何かしらの原因があるはずだ。
何よりも、マキツユリだ。なぜあの場所を知っているのか、と聞いたとき、彼は何かを隠すように笑った。

それは、下手くそなつくり笑いだった。
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