これを『運命の恋』と呼ばないで!
鐘を鳴らすのは誰と
翌日のオフィスは平穏な様子に戻っていた。

青空先輩が海外へ転勤するというニュースは、たった1日で過ぎ去ってしまったらしい。

転勤が決まった青空先輩は忙しいらしく、朝から本社へ呼び出されて留守。

鬼がいないから仕事が進みそうだけれど、私は逆に捗らなくて困った。



「ナッちゃん残業になるよ?」


一向に進まない私を気にして汐見先輩が呟く。


「…いいんです。今日は急ぎの用事もないし」


ない訳でもないけれど気が進まない。
仕事を終えたら、京塚先輩のお店に行かなければならない。

昨日言ってた大事な話を聞きに行く。
ホントは聞きたくないけれど、私は行くと約束してしまった。



何故そんなことを言ってしまったんだろう。

自分の気持ちが弱ってるからと言って、京塚先輩に頼ろうとするなんてズルい。

頼る前にしなくてはいけないことがあるのに、それを見ないようにしている。

あの時のようにフラれるのが怖い。

先輩に想いを告げることは、ひどく勇気がいるんだ。



ノロノロと進めていても仕事はいつか片付く。
そもそも、そんなに難しい仕事は任されていない。



(有り難いんだか情けないんだか……)


どう考えても後者だろうと思う。
無能な自分でいる限り、ずっとこんな思いを抱き続ける。

情けなくないようにしたいなら変わっていかないといけない。

でないと、前にも進んでいかない……。


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