これを『運命の恋』と呼ばないで!
必死というより覚悟に近い感じだった。
そうまでして切り捨てたい思い出といえば、やっぱりアレしかないだろうと思った。


「失恋したんですか?」


無遠慮に尋ねると、吊り上がってたナツの目は急に落ち込んでしまい……


「失恋…って言うのかな、これも……」


伏せた目から涙が溢れ落ちた。
泣かすつもりなんてなかったからビックリして慌ててしまった。


「お、お客様!?」


どうしました…と言う間もなく、ナツは目をゴシッ…と拭き上げた。


「気にしなくていいから切って下さい。この髪には思い出が多過ぎてツラいんです」


逆らうとそれ以上に泣き出しそうな雰囲気があった。
そうまで言うなら…と、ハサミを手にして後ろに立った。


ナツの髪は肩甲骨の端の近りまであるロングのストレートで、薄い茶色にカラーリングされていた。



(勿体ないなぁ…)


シャギ…っと髪に刃を入れてパラパラと落ちていくのを眺める。
ナツは最初のうちスゴく肩に力を入れていて、それが切ってるうちに段々と抜けていくように思えた。



「……3ヶ月前、カレシと別れたんです」


後ろの髪を10センチ位切ったところで、ナツは話し始めた。


「大学の先輩で、地元に就職が決まったから帰ることになって」


「……そうだったんですか」


寂しそうな表情を確かめて返事した。
ナツは泣きそうな顔をしながら、何とか泣かずに続きを話した。


< 174 / 218 >

この作品をシェア

pagetop