これを『運命の恋』と呼ばないで!
思い出2
若山夏生のことを初めて聞かされたのは、昨年度の異動が始まる2週間ほど前だ。



「青空君、丁度良かった!」


社食へ向かう途中、後ろから声をかけられた。


「山崎部長」


声をかけてきたのは営業部の部長で、足早に俺の方へ近寄って来た。


「君に頼みたいことがあるんだ」


いきなり真に迫った言い方をされた。


「頼みたいこと?何ですか?」


顔を伺いながら何かウラがありそうな予感がした。
山崎部長は俺を誘い、社食の側にある休憩室へと行った。


「実はうちの部署にどうにも役立たずな社員が一人いてね。君に預けるから厳しく指導してやってくれないか。このままではうちの部署からも不満が溢れだしそうで困ってるんだ」


「はぁ…」


そんな困った社員がいるのか…という気持ちだった。
勿体ぶった言い方をした部長は、本音を漏らし始めた。


「君の仕事ぶりは総務部長からもよく聞いてるよ。なかなかの逸材で一目置いてると話していた。
そんな君を見込んでのお願いだ。そのどうしようもない女子社員を厳しく指導して、能率が上がらなければ辞めさせてもいいと思ってる。
仕事ができない者を雇っておけるほど、我が社の業績は伸びてないから」


乱暴な言い方をするなと思った。
雇用してる社員の働きぶりが悪いというだけで、首まで切ると言うのか。


「その代わり、君の未来は約束する。だから宜しく頼むよ」


ポン!と肩を叩いて押し付けられた。
あの時、部長が言っていた『俺の未来』というのが海外支社への異動であるとは思いもせずにいた。


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