これを『運命の恋』と呼ばないで!
人じゃない。




獣ーーー?




しかも、この顔には見覚えがあるーーー





『オレを憶えているのか?』


ニヤついた鼻先の長い顔。

伸びたグレーの舌先が、丸っこくて黒い鼻の頭を舐める。

大きく見開かれた楕円の目は顔の側面にくっ付いてる。

その眼差しの中には私が映り、いつまでも睨み続けていた。




(同じだ……あの時と………)



山道で遭遇した相手。

思わぬ行動に驚いて、そのままにして逃げてしまった。




『ーーあの時、お前の車にぶつかったのはオレだよ……』


焦げ茶色の毛並みをした獣はそう言って笑いだした。
凝らした目のまま瞬きもせずにいる私に近寄り、鼻先を擦りつけた。


『車にぶつかった後のことを何も考えたりしてなかっただろう?…オレには妻も子供もいたのに……』



鋭い眼差しが突き刺さる。
確かにあの時、気が動転し過ぎてぶつかった現場には戻らなかった。



『お前の車にぶつかりオレは即死の状態だった。妻や子供が泣き叫ぶ中でオレは命を失ったんだ……』



そんなことは知らなかった。
あの時の私は、とにかくその場から逃げ出したい一心で……



『そんなこと…知りもしなかったから……』


『知らなければ何もせずにいていいのか。オレは苦しまずに死ねたけれど、オレの家族は今もまだ苦しんでる。
お前の顔は目に焼き付けていた。腐っていく肉体が朽ち果てるまでに復讐しようと決めたーー』


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