恋凪らせん
*結子 ~縁結ぶ女~*



名は体を表すという。意味は少し外れるけれど、どうやら私もその例にもれず「結子」の力を如何なく発揮しているようだ。

人と人との縁を結ぶ。そういう役回りになることが多いのだ。
ほんのちょっとしたきっかけの発端になり、結果、縁結びの役割を果たす。今までどのくらいの「縁」に関わってきたのか、あれこれ記憶を掘り起こすと自分でも驚いてしまう。

けれどこの力、自分の縁にはまったく発揮されない。人の恋は結べても、自分の恋はするりするりと逃げていく。
今日もそうだ。入社したときから「いいなあ」と見つめていた中杉さん。向こうから声をかけられて舞い上がっていたら、「女の子が好みそうないいレストラン知らない?」ときた。

『吉野さん話しやすいからさ』
『え~、そうですか~』

話せて嬉しかったから笑顔で接することができたと思うけど、心は雨模様だった。漫画やドラマみたいに、「ここがいいですよ」なんて答えたあと、誘われるのは実は自分で……なんていう神展開にはもちろん至らなかった。
スマホで詳細を検索しながらいくつかお店を挙げると、中杉さんは「ありがとう」と照れくさそうに頭を下げて行ってしまった。

私が教えたお店に誰を誘うのだろう。できれば私が知らない子がいいな。
これがきっかけになって必ず成就するなんて保証はどこにもないけど、今までのあれこれから予想するに、中杉さんはうまくいく。
だから彼のとなりに立つ人は知らない子がいい。嫉妬くらいはしてしまうから。

けれど、それからしばらくして中杉さんが同じフロアの有咲とつき合い始めたと聞いた。さすがに公私混同は避けた大人の態度だったから、会社でふたりの姿を見せつけられることはなかったけどやっぱりそれなりに落ち込んだ。

「結子」の力は偉大なり。

その一文を珠莉にメールする。それだけで察した彼女から「今夜は飲むよ」と返信があって、私はスマホの小さな画面を泣き笑いで見つめた。



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