恋凪らせん
*珠莉 ~体だけの女~*



いーち、にーい、さーん、しーい…………四秒? なんと新記録樹立だ。

乱れた息を整えようともせず、汗ばむ肌を引き剥がして男があたしの上から離れていった。声もかけず振り返りもせず浴室に向かう男の背中を眺めて溜息をつく。途端にすうすうと体が冷える。そんな態度をとられても心までは冷えない。その程度の関係。

行為後、男が女の肌に触れている時間で愛情の深さがわかるなんていうけど、四秒じゃあねえ。愛情なんて爪の甘皮ほどもない。もちろんあたしのほうもないけれど。
無口な男は嫌いじゃない。終わったあと、反省会みたいにべらべら喋る男よりは何倍かマシというものだ。どうせお互い体だけ。

でもこの男、会うのもするのも三回目だけどあまり体の相性がよろしくない。そろそろ切ろうかなと考えながらベッドのヘッドボードについているラジオに手を伸ばす。男が使うシャワーの音に重なって、聞き覚えのある曲が流れてきた。
たしか『Shield Go』とかいうバンドの曲だ。結子が好きでよく聞かせられたから、なんとなく憶えてしまった。

<過去はきみを責めない くすんだ未来に自分を追い込まないで>

甘く掠れたボーカルが心地いい。このまま聴いていてもいいかなと思ったけれど、男を切るなら今がいいタイミングだ。
あたしはベッドから跳ね起きるとさっさと服を身に着けた。男は大した余韻をあたしの体に残してくれなかったから機敏に動けて笑ってしまう。
テーブルの上に放り出された男のスマホを操作してあたしのアドレスを消す。当然自分のスマホからも男のアドレスは削除。
ぐるりと壁に貼られた悪趣味な鏡でささっと髪を直す。

<さあ歩き出そう 前だけを向いて 光満ちるきみだけの未来へ>

ラジオはそのままにあたしは部屋を出た。『Shield Go』の楽曲があたしの背中を押してくれる。光が満ちているかどうかは別として、前だけを向いて歩くことに異存はなかった。



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