恋凪らせん
*エピローグ*



―― * * * ――


聞いて欲しい話があるんだけど、日曜日会えないかな。
やけに真摯な表情だった。声も落ちついており、ある種の覚悟のようなものを感じさせた。
いつものように京子と昼食を共にしていた有咲は少しためらう。

こうしてよく一緒にいるが、そこまで親しくはない。休日まで職場の人間と会いたいとは思わないタイプの有咲にとって、京子のこの誘いは少々面倒だった。
波風を立てることを嫌い、何事にも笑ってうなずいてきた有咲だったが、最近断ることができるようになった。仕事を押しつけようとする同僚を笑顔で躱せるようになったし、飲み会の参加率十割は崩れた。

本気で嫌だと思えば京子の誘いも角が立たない程度に断れるはずだが、いくらかの逡巡のあと、有咲は「いいよ」と微笑んだ。

「本当? よかった。休みの日なのにごめん。あっ、中杉くんと会う予定とか入ってたりした?」
「入ってないよ。大丈夫」

実は予定はあった。とはいっても、何となく「どこか行こうか」程度のデート約束だったので、事情を説明すればわかってもらえるだろう。
デートを反故にしてまで有咲が京子につき合う気になったのは、彼女が最近恋人について口にしなくなったからだった。

とっくに別れたはずの恋人とまだつき合っている嘘をつき続けてきた京子。それを知っていながら指摘せずに恋人自慢を聞き続けた有咲。なにかの共犯のような想いも抱いていた有咲は、「うちの彼が~」と言わなくなった京子の変化を敏感に感じとっていた。

そんな京子が、わざわざ休日に「聞いて欲しい話がある」というのだ。もしかしたら……と察せられる。
京子の話が、有咲が考えているように彼女の恋人自慢の嘘だとしたら、そんな思い切った告白をする相手に自分を選んだとしたら。

そうしたら、会社の同僚ではなく、ようやく「友だち」になれるのかもしれない。

ナポリタンの皿から、苦手だというピーマンを真剣に選り分ける京子を見ながら有咲は小さく微笑んだ



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