恋凪らせん
*京子 ~虚構を抱く女~*



見送ったふたつの背中はぎこちない距離感だった。ほとんど野次馬根性で無責任に煽った感じだけど、なにかのきっかけになったらいいなとは素直に思う。
同窓会のあとにふたりで抜け出すなんて王道中の王道。でもだからこそ、そこから生まれるものも多いんじゃないかと思うわけ。

あれこれ勝手に妄想しながらニヤついていると名前を呼ばれた。表情を戻せずにニヤついたまま振り返ると「ご機嫌ね~」と笑われた。

「二次会行くでしょ京子」
「あーごめん。彼が迎えに来るからパス!」
「そうなの? えー残念」
「ごめんねえ、うちの彼、心配性で」

“うちの彼”をさりげなく強調する。そっかあと一瞬羨ましそうな色を声に滲ませた女友だちに優越感をおぼえた。
だからご機嫌なのかあと口を尖らせた彼女に笑顔だけで応える。

「あ、そうだ。和花も用事があるって帰ったよ。康平が送ってったから」
「そうなんだ。わかったー」

先に出ていった同級生たちを追って彼女が去ってしまうと、あたしは居酒屋の喧騒の中にぽつんと残された。なにげなく振り返ると、宴の後の乱雑な座敷が目に入る。さっきまでの賑やかな空気が嘘のように萎びている。

何事にも表と裏があって、本当と嘘があって、それで成り立っているのが世の中というものだ。嘘も世界を構成するひとつなら、そんなに責められたものでもないよね。勝手な自論に自嘲しつつ、店の出入り口に足を向けた。

表と裏……と考えて和花の顔が浮かぶ。彼女もちょっと気の毒だ。すごく可愛くて『高嶺の花』なんて言われて、男たちから変な距離置かれてたよねえ。誰が告白するのか、互いに牽制しあって結局誰も動かないみたいな。でもあの子、実はけっこう中身は男っぽい。サバサバしてるし話しやすい。勝手な表のイメージに振り回されたのは、男どもか和花自身か。

なんにせよ、今日は康平といい雰囲気で話が弾んでたようだし、野次馬としてはうまくいくといいなあと勝手に応援してみる。



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