よるのむこうに
17、脅迫


私が連れ込まれたのはビジネスホテルの小さな部屋だった。
ただでさえ狭い部屋の中に押し込まれるようにして設置されているベッドは、普通のシングルであるにもかかわらず部屋の面積の八割を占めている。そのくらい小さな部屋だった。

ユニットバスから安っぽい洗剤とかび臭さのまじりあったにおいが漂ってくる。


天馬は部屋に入るなり私をベッドに投げ出した。

私は一瞬、犯されて首を絞められる自分を想像して身震いした。
この部屋に連れ込まれるまでに大声で助けを求めて警察を呼べば逃れられてはずなのに、私は有名選手である天馬のキャリアに気を使ってそれをしなかった。自分がこんな危険な目に遭うなんて考えもしなかったのだ。

天馬は部屋に一脚しかない椅子を片手で引きずってきて、唯一の出入り口であるドアをふさぐようにして置いた。
彼はそのまま、油断なく私の動きを見つめながらゆっくりとそこに座った。

天馬はその鋭い目を私のつま先に向け、そしてゆっくりと目線を上げた。もともときつい彼の双眸には抑えきれない怒りが漲っている。
私は恐怖に震えながら、そっとまくれあがったスカートの裾を直した。


ドラマでよく見るような感動の再開なんてものはそこにはなかった。

あの日から二年もたつというのに、天馬はつい先ほど私に捨てられたかのように激怒している。
もし再会したらあくまで他人として振舞うか、それとも互いに過去を懐かしむだろうかと私は勝手に想像していた。
けれど私の身勝手な想像は見事に崩され、私は今、激怒した元恋人を前にただ怯えている。

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