よるのむこうに


「ふふ、あのメロンおいしく頂いたよ。ありがとうね」

「あ……喜んでもらえて良かった。
あと、電話に出なくてごめんなさい。彰久君は何も悪くないのに」


彼は私の謝罪を華やかな笑みでかわして、まるで外国映画の登場人物がやるように優雅な仕草で私の手をとった。


「これ、メロンのお礼ね」
彰久君はにっこりと微笑むと、ポケットから取り出した腕時計を私の腕にはめた。

ダイヤモンドをちりばめられきらきらと輝くピンクゴールドの時計はハリー・ラクロアの刻印が入っていた。ハリーの腕時計といえば一番安いものでも30万円は下らない。

私は驚愕に身動きを取ることができなかった。五千円のメロンのお礼が高級腕時計とは……!


「う、う、受け取れないよっ……これ、ハリーじゃない!!」

「うん。メロンを貰ってすぐに君に似合いそうだなって思って手に入れたんだけど、ほら、夏子ちゃん俺の電話に出てくれないから、わたせないままだった。結局二年前のシリーズになっちゃった。ごめんね」

彼はそう言いながらハリー・ラクロアの上品なシャンパンゴールドの小さな紙袋を私の腕にかけた。

「いやいやいやいや、メロンのお礼が腕時計ってわらしべ長者じゃあるまいし」

「メロンだけのお礼じゃないよ。
君には本当に……めったにないものを見せてもらったから、むしろそっちのお礼って気持ちのほうが大きいかな」

「めったにないものって」

彰久君は少しうつむいて笑い声をあげた。

「取り乱して暴れる天馬。
君がいなくなってから大変だったんだよ。暴れるし、俺が君を隠したんじゃないかって家まで荒らされた」

「うわぁ」

「あいつは短絡的で喧嘩早いけど、理由もなく暴力を振るうヤツじゃない。きっと、あいつは夏子ちゃんが居なくなって死ぬほど苦しかったんだろう。
夏子ちゃんはもうあの時点ですでに天馬のベターハーフだったんだよ。誰だって自分を真っ二つにされれば苦しいに決まってる」

「ベ、ベターハーフって。better half?」

彰久君はにっこりと微笑んで頷いた。

ベターハーフというのは英語で妻、あるいは夫を指す言葉だ。強引に訳すと「より良き半身」つまり自分の半身だということ。

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