よるのむこうに

Tシャツの中に骨ばった手が忍び込んできた瞬間、私は小さく声を上げた。
彼は眉間に皺を寄せた。


「……なんだよ、」
「い、いやあのパンツとかどうするの、ゴムも……」

そして、一番恐ろしいことに、こんな事になるとは思っていなかったので無駄毛の処理が微妙な状態だった。

彼はにやりと笑った。
爽やかな笑みではない。きれいだけれど、少し怖いような悪い笑みだ。

「今さらビビってんじゃねえよ」

低い、笑いを含んだその声に肌が粟立った。

真面目で努力家だと人からいわれ続け、自分でも自分はそういう人間だと思っていたのに、私はこの人の魅力に逆らえない。

この猫のような男に人生を崩されてもいい。いや、崩されてみたい。
私はその夜初めて破壊の衝動を伴う性欲というものを知った。小さくてきちんと整頓された自分の人生の壁が崩れて、見たこともない夜の景色が展開されていく。

めちゃくちゃだ。でもこの男が案内人ならば、怖くはない。

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