よるのむこうに
私はそれを聞いてどう反応していいのかわからなかった。
目の前の男はどう見ても二十代半ばだ。彼の話が冗談なのか本当なのか、その顔を見ているだけでははっきりとはわからない。
彼の話が本当だとするならば、昔に比べて起業は楽になったとはいえ、こんな若い子のどこに会社を興すような資金やノウハウ、人脈などがあったのだろう。
彼は困惑している私の鼻をちょん、と人差し指でつついた。
「何でも顔に出ちゃう人なんだね。そういう女の子、嫌いじゃないよ」
「茶化さないでよ……」
「茶化しているんじゃないよ、本心。
たぶん、夏子ちゃんはこう思ってるんだよね。起業って冗談?って。でもあいにく冗談じゃないんだなぁ。ちょっと事情があって、大学を辞めないですぐに金持ちになりたかったものだから在学中に起業した」
「でも起業したいからって、ハイそうですかってできるとは……」
彼はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「定番だけど資金は親ね。
最初は俺が自分で営業活動をして仕事を取ってきてモデルもこなす。在籍するモデルが少なくなってきたらバスケ部時代の友達とか先輩とか……伝手を頼って天馬みたいなやつを探してくるんだ。なんだかんだで起業して五年目だけど、まあまあ稼げてるよ」
「えっ、天馬、えっと、あの。話の腰を折って悪いんだけど、天馬ってバスケ、やってたの……?」
「知らなかったの。バスケやってる人間の間では結構有名な選手だったんだよ。一年でいきなり強豪校のエースだよ」
天馬は今までそんな有名選手だったことは少しも私に言わなかった。家にバスケットボールを持ち込んだこともなければバスケ雑誌を読んでいるのも見たことがない。彼が熱心に取り組んでいるのはパチンコか携帯アプリのゲーム。それもスポーツ関連ゲームはたくさんあるのに、彼が楽しむのはシューティング系のゲームばかりだ。
こんな天馬が強豪校のエースだったなんていわれても少しも実感がわかない。