よるのむこうに

天馬は悪気こそないのだろうがかなり大雑把な上に、熱中しすぎるといろいろとむきになってしまうところがある。

彼はすでに何度かゲームのコントローラーを壊している。
壊したものがコントローラーなら買いなおせばいい話だが、私の体は買いなおせない。そういう意味でも天馬に私の介護は……。本人がそれを希望したとしてもお願いできない。こわい。

口ごもった私を見て彰久くんは苦笑した。


「確かにな。俺が夏子ちゃんの立場なら絶対にヤツに介護されるのはいやだ。デリカシーもないし力の加減も知らない」


酷いことを言い合っているなという自覚はあるけれど、やはり私達は顔を見合わせて笑ってしまった。


「なるほどね……。ま、別れるならそれは夏子ちゃんの選択だから仕方のない話だけれど、天馬に話をしてみれば。
あいつは確かに大雑把でだらしないヤツだけど、見た目ほど不人情なヤツじゃない。
俺は君の友達だと思ってるけど、天馬との腐れ縁もある。どっちが困っても仲裁くらいはするし天馬が本気で君をダメにしそうなら君を逃がしてあげる。
でも、黙っていなくなるのはなしだよ、お互い一生ひきずることになるから」

一生引きずることになるという彰久君の言葉に、一旦うなずきはしたものの、私はともかく天馬は「ひきずる」なんてことにはならないだろうという気がした。
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