よるのむこうに

8､半野良の言い分

キッチンできゅうりを切っていると、天馬が入ってきた。

「昼飯なに？」


休職期間に入った私はずっと日曜日だ。
私が家にいることがわかっているので、天馬はいつも昼に一度帰ってくる。

今まで彼は平日の昼食をどこで食べていたのだろうかとふと考える。
よく考えたら今まで私が出勤したあと、彼がどこで何をしているのか私は全く知らない。おそらくパチンコだろうとは思うのだが、それだけに一日を費やせるほど天馬は根気のあるほうではないとも思う。
ではパチンコ以外は何をしているのか。全く謎だ。

今まで仕事が忙しすぎて考えてもみなかったことが頭をよぎるので、仕事がないといっても私の頭の中は意外と忙しい。


「お昼はそうめん」


天馬は不満そうに口角を下げた。


「またかよ……。こう続くと飽きるな」
「しょうがないでしょ、実家から大量に送ってきたんだから」

私は口を尖らせた。
食うだけの人間には食事の内容に文句を言う権利などないわ。にくったらしい。

「そうめんなんか一日食うのが遅れたって腐りゃしねえだろ。米食おうぜ、たまにはさ」


彼は勝手な事を言いながら狭いキッチンに入りこみ、冷蔵庫から牛乳を取り出してパックから直接飲みはじめた。
天馬は狭いキッチンの中だというのに、私が料理をしているその後ろを大きな体でするりと抜ける。その器用さは見習いたいものがある。まるで猫だ。