再生する



 リビングよりひどい状態の寝室で、ゴミ袋と段ボールを傍らに置き、埃まみれの床に正座をしながら作業した。

 さっきから本の量が凄い。ちらっと見ただけでも気になるタイトルが山ほどあるし、壁際には天井まである大きな本棚がある。綺麗に並べたらさぞ壮観だろう。
 部屋の片付けが全て終わったら読ませてもらおう。

 本や衣類の中からは、エアコンとテレビのリモコンを発掘した。
 掃除機のせいで扉が閉まらなかったクロゼットからはノートパソコン。
 大量に物が押し込まれたベッド下からも大事な物が出てくるだろう。

 成人向け雑誌を掘り当ててしまったらどうしようと悩みつつも、ベッド下だけ放っておくわけにもいかず、意を決して手を突っ込んだ。


 タオルと服、未使用か使用済みか不明の男性用下着、インテリア雑誌に文庫本、未開封の歯ブラシ、不気味な色の液体が入ったペットボトル、マウスパッド、ゴミが入ったコンビニ袋……。
 それらにくっついて出てきたのは、成人向け雑誌ではなかった。でも、それよりも見つけてはいけないような物だった。


 ぐしゃぐしゃになった婚姻届と、指輪が入っていると思われる小箱。


 見た瞬間、どきっとした。
 神谷さんの名前と、見知らぬ女性の名前が書いてあったからだ。

 これがいつ書かれたものかは分からないけれど、神谷さんは結婚しようとしていた。でもこれがこんな所にあるということは、この婚姻届は未提出。わたしに告白をしてきたということは、結婚は白紙になったのだろう。

 それでも、これはわたしが見るべきものではない。

 慌てて婚姻届を折りたたみ、とりあえずインテリア雑誌にでも挟んでおこうとそれを手に取ると、ばさばさばさと何かが床に落ちる。
 大量の写真だった。

 写っていたのは神谷さんと見知らぬ美女。
 ふたりとも幸せそうな笑顔だ。

 神谷さんがひとりで写っているものは彼女が撮ったものだろう。見覚えのある部屋の見覚えのあるソファーに座って、神谷さんが新聞を読んでいる。

 清潔で明るくて過ごしやすそうな大人の部屋。そんな印象だった。

 この部屋がゴミ屋敷になる前、ここで実際に起こったことなのに、いまいち信じられない。
 この部屋の現状が悲惨なものだからか。それとも、神谷さんに婚約者がいたことを、信じたくないせいか。

 深く息を吐いて、婚姻届と写真を雑誌に挟み、指輪入りの小箱と一緒に本棚に押し込んだ。


 ちょうどそのとき神谷さんが寝室を覗き込み、少しだけ片付いた部屋を見て喜んだあとでわたしを食事に誘ったけれど、そんな気分になれなくて丁重にお断りした。

 婚姻届と指輪と写真。この三点セットのせいだと思った。




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