再生する




 月曜日の朝、ゴミ屋敷の中で告白され、わたしは「一週間以内にこの部屋を綺麗に片付けることができたなら、もう一度告白してください」と言った。

 ここに連れて来られたということは、片付けは終わったということだ。

 そして片付けが終わったということは、三年前、婚約者が去ったがらんどうの部屋に戻ったということ。

 わたしはこれから、寂しくて悲しくて堪らなかった頃の神谷さんの気持ちを体験する。

 その気持ちを体験したあとは、きっとこのひととどうなりたいか、分かるはずだ。



 部屋の前に立つと、自分が緊張していることに気付いた。

 ドアが開き、先に中に入った神谷さんが、廊下の灯りを付ける。神谷さんはすぐに振り返って半歩後ろに下がり「どうぞ」と中に促す。そのおかげで、照明に照らされた玄関と廊下がよく見えた。

 前回ここに来た火曜日には、まだ大量のゴミ袋があった。今はもうそれはなくなり、本来あるべき玄関と廊下の姿になっている。

 でもわたしは緊張でなかなか一歩を踏み出せなくて、綺麗になった廊下を見つめながら、その場に立ち尽くす。
 それを見て神谷さんは静かに頷き、わたしの手を握って中に引き入れたのだった。

 衣類もゴミも靴も食器もない綺麗な廊下を行き、リビングのドアの前に立つ。この先にがらんどうがある。
 息を吐いて、繋いだ手をぎゅうっと握り、いよいよ心の準備をした。

「開けるよ」

 その言葉を合図に一旦目を閉じ、手を引かれて一歩二歩と進んでから、ゆっくりと目を開けた。


 言葉が出なかった。


 何もない。ゴミも衣類も食器も雑誌も新聞も。あるのはソファーやテーブルなど最小限の家具だけ。
 床も壁も棚も綺麗に磨かれ、もう謎の物体を踏む心配もない。
 写真で見たのと同じ、清潔で明るい部屋だった。

 繋いだ手を離して、さらに一歩二歩と進んでリビングの真ん中に立ち、改めて部屋を見回す。

 どこから見ても清潔で明るい部屋だ。でも、寂しい部屋だと思った。生活感がまるでない、ただの部屋。何もない部屋が、こんなに寂しいものだとは。何もない部屋に引っ越して来たのとは違う。引っ越しなら新たな気持ちで荷ほどきすればいい。でもここには、荷物も思い出も彼女への気持ちもあった。そこから突然、全てが消え去ってしまった。

 これが、三年前神谷さんが見た光景。感じた気持ち。


 いたたまれなくて唇を噛みしめる。
 あの頃の姿に戻った部屋で、神谷さんは今、何を思うのだろうか。




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