再生する



 無事に指輪を選び終えた孝介くんとタカちゃんが帰ったあと、すぐ閉店時間となった。


 帰りの車中、幸せそうなふたりの顔を思い出してふっと笑うと、ハンドルを握る神谷さんもつられて笑った。

「幸せそうだったね」

「ですね。タカちゃんと連絡先も交換しましたし、ドレスの写真送ってもらいます」

 彼女のドレス姿はきっと可愛い。赤ちゃんの性別も近いうちに分かるだろう。そのときのことを想像したらまた笑ってしまった。


「ねえ、青山さん」

「はい」

「ふたりの幸せにあやかってさ、俺たちももうちょっと、進んでみようか」

 唐突な提案に、ハンドルを握る神谷さんを見遣る。

 神谷さんは真っ直ぐ前を向いたまま「家では、詩織って。呼んでいい?」と。穏やかな声で言った。

 出会ってもうすぐ三年。付き合い始めて数ヶ月。初めて下の名を呼ばれ、心臓が跳ねた。

 まさか好きな相手に名前を呼ばれることが、こんなに嬉しいなんて。


「……いいに決まってます。決まってますし……それならわたしも、家では俊介さんって、呼ぶことにします」

 勇気を出してそう言っても、神谷さんは無言だった。
 無言のまま突然、通りかかったコンビニの駐車場に入る。マンションはまだ先だし、この場所にあるコンビニには今まで寄ったことがない。

 何事かと思ったら、駐車場に停車させてすぐ、神谷さんの唇がわたしの唇に激突した。

 軽く舌を絡めたあと、ほんの少しだけ顔を離したけれど、唇はまだくっついたまま。
 そのままで「もう一回呼んで」と言うから、くすぐったくて背筋が震えた。

「……俊介さん」

「ん……。このまましゃべるとくすぐったいね」

 くすぐったい会話はしばし中断。キスを再開させて、腕を背中や肩に回して、お互いの唇に集中することにした。



 これから先、こうやって少しずつ、色々なことが変わっていくんだろうなと思った。

 もし何かで悩んだり、不安になったり、壊れたりしても、神谷さんがいればわたしは再生できる。

 大丈夫。ふたりでやっていける。








(了)
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