先生。あなたはバカですか?



イライラしながら過ごすこと数時間。


そして、お昼休みに入ること5分経過。



お昼休みの時間を一分一秒でも無駄にしたくなくて、私は足早に数学科準備室に向かっていた。



貴重な勉強時間を裂いて、なぜあの男の所に向かわなきゃならないのか……。


考えただけでまた腹が立ってくる。



でも、あの参考書だけは取り返さなくては。



あの参考書は、私にとって少し特別な物だった。


使うたびに少しずつ細かい書き込みをして、大事な所には付箋やマーカーで印をして、


どの参考書よりも使い古されている。


大学受験を戦い抜く上で、私にとって欠かせないパートナーだ。




母に定められた大学に行くために、ただただ勉強に明け暮れる日々の努力を、あの参考書だけがいつも肯定してくれているように感じた。


書き込みや付箋が増える度に、少しずつでも母の希望に近付いているのだと、


そう思って…。



––––「翠。お父さんのようになりたくなければ、死ぬほど勉強をしなさい」



ぼうっと頭の中でそんな声が聞こえて、私は大きく頭を振った。


< 17 / 434 >

この作品をシェア

pagetop