先生。あなたはバカですか?
色んな事をして。


色んな事にぶつかって。


辛い事とか悲しい事とか、人生バカみたいにあるけど、


きっとお前ならそれを乗り越えられる。



先生はそう言った。


ネックレスから手を離し、再び私を自分の腕の中に押し込めながら。


「それで、乗り越えた先のお前は、気が付いたらこのネックレスが似合うようないい女になってる。俺にはそんなお前の未来が見える」


子供で、無力で、なんの取り柄もない今の私の先を先生はちゃんと見ていてくれてる。


そう思うと、胸の奥がじんわり温かくなってくる。


「……辛かったり、悲しかったり、どうしても立ち直れない事があったとしても、きっとそのネックレスがお前をそこまで導いてくれる…。だから…俺がもしも……」


「……先生?」


言葉が途切れて、先生の規則正しい寝息が聞こえてくる。


体を起こし先生を見れば、まぶたは閉じられ長い睫毛が揺れている。


「“もしも”何なんですか…」


先に寝ちゃうとか…。


明日文句言ってやらなきゃだわ。


と、心の中でボヤきながら、その綺麗な黒髪を撫でようと手を伸ばそうとしてドキッとする。


––––え?


先生の閉じられたまぶたの間から、一筋の涙が伝ったからだ。
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