“Three Years”isn't so long
高校が比較的勉強に力を入れる校風だったのが災いしてか、大学に入った私は糸の切れた凧のように、キャンパスライフを謳歌し倒した。





大学の講義やバイトもそこそこに、遊んで、遊んで、遊び尽くした。それが合っていたか間違っていたかは別として、「楽しかった」のは間違いない。今でも「大学時代に戻れたら」と、3日に1度は考える。





けれども、大学で何かに本気で打ち込んだか?とか、大学時代の一番の思い出は?とか、そんな感じのことを聞かれると、私は恥ずかしいくらいに閉口してしまう。





それほどに私のキャンパスライフは薄っぺらで、表面的で、無味乾燥だったんだって、思い知らされるのだ。





「中身がない」という表現が、私の大学生活の総括としては1番しっくりくる。友達もちゃんといたし、サークルもちゃんと入ったし、単位もちゃんと取ったけど、それでも私の大学4年間は、やっぱり中身のない、惰性でいっぱいの4年間でしかなかった。





目の前でぐうすか眠っている界人を見ていると、嫌と言うほどそれを痛感するのだ。





「一生懸命」という言葉がいかにも安っぽく聞こえてしまうくらい、界人はバンドという世界に没頭していた。





音符とコードと歌詞で真っ黒に塗りつぶされた何枚もの五線譜とコピー用紙を見れば、それは一目瞭然。取り憑かれていると言ってもいいくらいに、界人は音楽に打ち込んでいるようだった。





界人の満足げな寝顔はきらきらと輝いて見えて、とにかく眩しくて。まるで自分の汚い部分が余すところなく照らされてしまうようで、とても居心地が悪くなる。





他方で、あの泣き虫だった界人が立派に生きてることを、なんとも嬉しく感じる自分がいた。





矛盾しそうなふたつの感情が、私の中でぶつかって、せめぎ合って、ない交ぜになって。





──よく、分からなくなって。





整理のつかない頭を無理やり落ち着かせるために、熱いコーヒーをすすって。





「あつっ…!」





予想外の熱さに驚いて、それまでの葛藤は一時吹き飛んで、心の奥底で塩漬けにされた。





まぁ、界人が頑張ってるんだから、それでいいか。と。






私も頑張ろう、と。





こんないつも通りの心持ちになって、私は界人の寝顔を閉店時間までずっと眺めていた。
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