背伸びして、キス
でも、あの人だ。
私は考えるより先に飛び出してその人を呼び止めた。
「あ、あの!」
名前を知らない人を呼び止めるのって、大変なんだと知った。
あの、と後ろから声をかけたところで止まってはくれず。
仕方なく、もう一度声をかけながら袖を引いた。
「・・・は?」
怪訝な顔で振り向かれ、じろっと向けられた視線。
咄嗟に、飛び出してしまったことをものすごく後悔した。
「あ、あの、すみません・・・」
話しかけてしまってから、どう説明するかも考えていなかったことに気づいた。
たった一度ちらっと顔を合わせただけの人の事を覚えているわけがない。