大人のような子供の二人
プロローグ
*****



 発端はとっても些細な事だった。

 そこそこ大手と言われる広告代理店。忙しければ残業する人もいるけれど、今日は誰もいなくなってしまった時刻。

 今日もそんな時間に居残りするのは、きっと私は断り切れないからだと思う。


「写真を明後日までって……どれだけ無理を言われてるか解ってます?」


 サングラスに、暑苦しくも黒のレザージャケットの男。

 彼は企画から回された書類を眺め、重く溜め息を着いた。

「私が無理を言ってる訳じゃないからね」

 イライラとボールペンの先を回しながら、デスクの下で足を組む。

 いつもながら突然の企画部の仕事。

 企画はちょっと計画を立てるだけ立てて煮詰めるのも上手だから、納期ぎりぎりになることが多い。

 こういうのはいつも宇津木君が引き受けてくれていたのに、今回ばかりは頼む訳にもいかない。

 何と言っても彼は出張中。

 しかも、もっとスケジュールは過激。

「だから、企画にどんな無理を言われてるか解ってるのか……と言ってるでしょう」

 ちらっと顔を上げると、サングラスを外した苦い視線と目が合った。

「……解ってるけど」

「なら、食い下がって下さい」

 食い下がって来られるものなら食い下がるよ。

「だけど、荒木さんですらはねつけられたわ」

 その言葉に、今野くんは眉間にしわを寄せる。

 うちのマネージャーですら話にならないのに、私みたいなぺいぺいのアートディレクターが太刀打ち出来るはずがないじゃない。

「……じゃ、有野さん辺りをせっつきますか」
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