ひとつの村が消えてしまった話をする
8月15日、辿静祭当日、午前6時。

神社の本殿へと通された葵は、身体の穢れを消滅させる為の禊を行う用意がされた滝へと向かった。

禊には葵の両親が付き添うらしい。

俺はその間、本殿へともう一度呼ばれ、神主一族の方と話をする事になった。

「単刀直入に言わせて貰うが、滋についてだが、恐らくはもう手遅れだろうと思う…
葵は若い女性という点が障者にとっては生かす利点になった為、監禁され、弄ばれる程度で済んだかも知れないが、滋は若い男性だ。障者にとって、男性は邪魔にしかならない。その部分だけで、滋は殺されるだろうからな…」

俺は助けると誓った時、薄々感じてはいた。

もう滋を救う事は出来ないのでは無いかと。

俺は分かっていながらも、親友を失った事に涙した。

「彼の魂は、あの小屋に永遠に留まり続けるだろう。彼はあの小屋で『第2の男性障者』となる。我々に障者はどうする事も出来ない、あの存在は既に輪から外れた存在なんだ」

目を閉じる一族の人。

「君がまだ、あの小屋に呼ばれているのならば、もう一度小屋に行けば会えるだろうな。だが、今度は確実に君は殺される。それに、君が死ねば葵は1人になる…その事を努々忘れずに」

俺は泣きながらも、泣いても済む問題では無いと分かっていた。

神主一族は、俺の聞きたかった事を全て話してくれた。

俺が死ねば、葵は1人になる。

滋には悪いが、俺は死ぬ訳にはいかない、そう思った。

滋よりも葵を取った。

この時、自分が非道だと初めて認識した。

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